経営系大学教員の授業の小ネタ

とある大学で経営学を教えている大学教員が授業で話せそうな小ネタを集めておくブログ

価格差別の事例で使えるamazonの低所得者向け会員料金の引き下げ

低所得者もターゲットとして定めたamazon

シリコンバレー=中西豊紀】ネット通販大手の米アマゾン・ドット・コムは6日、無料の翌々日配送など「プライム」サービスの米国での会費について、低所得者層は約半額の月5.99ドル(約650円)に引き下げると発表した。米政府が支給する食料配給券(フードスタンプ)などの受領者が対象。低所得層の顧客が多い小売り最大手の米ウォルマート・ストアーズに対抗する。(出典:米アマゾン「プライム」会費、低所得層は半額に (写真=AP) :日本経済新聞

アメリカにおいてamazonはこれまで年会費99.9ドルのプランと、月額10.99ドルの2つのプランを用意していたため、 この記事からは、amazonが類似のサービスを3つの価格帯で提供するようになることが分かる。より具体的に言えば、

  1. 低所得者層:月5.99ドル
  2. やや価格に敏感層:年99.9ドル(月あたり約8ドル)
  3. それ以外:月10.99ドル

という価格体系を取っていることになる。

これはまさに、価格に敏感な層には安く、価格を気にしない(鈍感な)人たちには高く自社の製品・サービスを売りつけることによって、利益を最大化させようとする試みであり、一般的に価格差別などと言われるものである。

出版社が、小説を販売する際に初めはハードカバーの高い値段で売ることで「価格は気にしないから早く読みたい」という消費者には高い価格をぶんどり、その後、安い文庫本を出すことで「高い値段を出してまで買いたくないなあ」という人にもお金を出してもらう、というのと同じである。

郵便局が速達というサービスを提供しているのも、JRが新幹線でグリーン車、指定席、自由席に分けているのも価格差別の例である。

他にもことわざの「足下を見る」というのも、元々は宿屋の女将が旅人の足下をみて、疲れ具合を観察し、非常に疲れていて宿屋の値段にかかわらずすぐにでも寝たいと思っている旅行者には宿賃をふっかけ、疲れておらずぴんぴんしている旅行者には安めの価格を提示するというが語源である。そのため、よくよく考えれば、これもまさに価格差別の例である。

特に、この「足下を見る」ということわざと価格差別をからめて説明すると、学生の多くは「なるほど〜」という表情をしてくれるのでお勧めである。

価格設定には、競合企業との競争も考える必要がある、という内容にも利用可か

ちなみに、先述のAmazonのアメリカでの価格設定を見て、高いなと思った方もいるかもしれない。なにせ、日本でのプライム会員の会員料金は年間でたった3900円であるため、アメリカの低所得者向けよりも安い値段である。

なぜ、このような価格設定になっているかというと、1つはアメリカのように広大な土地ではスーパーなどに行くにも時間がかかるため、家にまで運んでくれるネットの魅力が高いというのがあるはずである。そのため、高い魅力を感じているアメリカ人にはそれだけ高い価格を請求し、そうでない日本人には安い価格を提供している、といういわば国際的に価格差別をしている、という話しをすることもできる。

また、もう1つの理由として考えられるのは、シェアの違いである。

2016年のアメリカのEC市場におけるAmazonの市場シェアは43%である。それに対して日本ではやや情報が古いが2013年におけるEC市場の市場規模は経産省によれば11.2兆円であり、日本ネット経済新聞(運営・日本流通産業新聞社)が発表した“2014年度インターネット通販売上ランキング”によると、2013年のAmazonの日本売上が7450億円であるため、シェアはわずか7%程度ということになる。

このように、日本ではAmazonは競合企業とまだまだ戦わなければならない立場にあるため、プライム会員価格を上げるにも上げられない、という状況にある。

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