経営系大学教員の授業の小ネタ

とある大学で経営学を教えている大学教員が授業で話せそうな小ネタを集めておくブログ

経営戦略論の概要:プレイヤーの数から考える交渉力(2)

前回の話をもう少し企業が直面している状況に寄せて考えてみましょう。

 

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企業Aはある商品を独占的に生産している企業であり、それを街に届けることができれば1億円の利益を獲得することができます。しかし、その街と企業Aとの間には川が流れており、橋を渡って商品を届ける必要があります。この時、橋の所有者が企業Aに対して通行料を要求する時、橋の所有者はいくらまで請求することができるでしょうか。別の言い方をすれば、1億円の利益を橋の所有者と企業Aは分け合うことになるのでしょうか。

 

少し考えてみましょう。

橋の所有者は商品を生産しているわけではないので企業Aに対してそれほど多くの通行料を要求することはできないと考えて、橋の所有者はせいぜい2,000万円程度だと考える人もいるのではないでしょうか。

逆に、橋がなければ企業Aは商品を届けることはできないので、橋の所有者はかなり強気にでることができると考えて、橋の所有者が6,000~8,000万円ほどの通行料を請求できると考える人もいるかもしれません。

 

しかしながら、正解はどちらも異なります。二つの意見を合わせてみれば、橋の所有者にとっては企業Aがいなければ通行料をとることができず利益を獲得することはできず、また逆に企業Aにとっては橋がなければ街に商品を届けることができず利益を獲得することができません。このように、上記の場合では橋の所有者にとって企業Aはかえのきかない存在であり、また逆に企業Aにとって橋の所有者はかえのきかない存在となっています。それゆえに、橋の所有者と企業Aのどちらかの交渉力が強いということにはならず、お互いに5,000万円ずつを分け合うということになります。

では、次はちょっとだけ状況を変えて、橋が2つできたというケースを考えてみてください。

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この場合、橋の所有者XとYは企業Aに対してどれだけの通行料を請求することができるでしょうか。

 

この場合はどうでしょうか。先ほどの例とは異なり企業Aはどちらの橋を渡って商品を運ぶのかを選ぶことができる立場にあります。この場合、どのようなことが行われるか考えてみましょう。

もし、橋の所有者Xが企業Aに対して5,000万円の通行料を請求した場合、橋の所有者Yは5,000万円以上の通行料を請求すると企業AはXの橋を渡ることになるので、Yの利益は0となってしまいます。

それに対して、Xの通行料よりも4,900万円をYが企業Aに請求した場合、企業AはYの橋を渡ってくれ、利益を獲得することができます。

しかし、これはXの立場からも同じことが言えてしまいます。Yが設定した4,900万円よりも低い通行料を設定しなければXの利益は0となるので、Xは4,900万円よりも低い通行料を設定しようとします。

そうしたXとYの間の値下げ合戦が繰り広げられる結果、橋の通行料は理論的には1円まで下がります。

このように、橋が2つあるのに対して、企業が1つという状況では企業が圧倒的に強い交渉力を持ち、それによって橋の所有者の利益の取り分が限りなく0に近づいてしまうことになります。

 

このことは企業数が2、橋が1つという状況でも同じことが起こります。橋を渡ることができる企業が1社しか存在しない場合、企業は自分たちの商品を街に届けることができなければ利益を得ることができないため、自分の通行料は他社よりも低くていいという交渉を行わざるを得なくなります。その結果、橋の所有者が9,999万円の通行料を請求することができてしまいます。

 

こうした簡単なケースから学べることは何でしょうか。このケースから学ぶことは2つあります。

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(1)企業は自社と同じ製品・サービスを提供している企業がなるべくすくなくなるようにする

(2)自社の取引相手はなるべく多くなるようにする

そうすることで取引相手に対して高い交渉力を獲得することができ、それによって高い利益を獲得することもできるようになります。

このような環境を創り出せるように、また維持できるようにすることが経営戦略を考える上で非常に重要となります。