シェール増産が原油上値抑制、当面40~60ドルで推移の公算
OPEC(石油輸出国機構)加盟14カ国と非OPEC産油国10カ国は、5月25日において開催された合同閣僚会合において、日量180万バレルの現行協調減産を7月以降2018年3月まで9か月延長することを決めた。(中略)しかし、一方で米国のシェールオイルの増産が需給緩和要因として意識される。現在のように原油相場が50ドル/バレル前後で推移する状況下でも、増産の勢いは強まり、結局上値は抑えられやすい。原油相場はかなりの長期間にわたって40~60ドル/バレルのレンジ内にとどまりそうな状況である(『週刊ダイヤモンド』2017年6月10日、24ページ)
この記事だけだと少し分かりにくいが、現在、既存の原油産出国(既存企業)が、シェール革命によって原油とほぼ同じ成分でとれる地層が異なるだけのシェールオイルを産油できるようになったアメリカ(新規参入)に脅かされることによって、原油価格を協調してあげていくことが困難になっていることを意味している。
新規参入の脅威によって低下する原油価格
上記のドバイ原油価格の推移をみると、シェール革命が生じた2013年以降、急激に原油価格が下落していることが分かる。ポーターの5フォース分析に基づいて考えると、考えられる理由は2つである。
- 新規参入が生じることによって、既存企業間で生じていた暗黙の共謀が崩れ、価格競争が生じたこと
- 既存企業である原油産出国が新規参入が生じないように、参入阻止行動を取ろうとしていること
シェールオイル企業の損益分岐点と操業停止点
また、あくまでもブログではあるが、
この記事によれば、
最大手のChesapeake Energy (NYSE:CHK)から紹介したい。数字の単位は百万ドルである。
- 売上: 2,753
- 実費: 1,903
- 減価償却等: 609
減価償却を含めたすべての費用が売上とほぼ均衡している状態にある。2017年1-3月期は原油がほぼ50ドルで推移した四半期なので、Chesapeakeは原油価格50ドルで損益分岐点近くにあるということである。
因みにChesapeakeは昨年から既に債務超過に陥っており、借金によって当面の資金繰りを何とか行なっている。大手のシェール企業で倒産するところが出てくるとすれば、先ずこの企業だろう。
もう一つ、比較的健全なシェール企業の中からPioneer Natural Resources (NYSE:PXD)を紹介しよう。
- 売上: 1,468
- 実費: 919
- 減価償却等: 622
Chesapeakeと同じように売上と全費用がほぼ拮抗している。こちらも50ドルで損益分岐点であると言えるだろう。
であるため、新規参入が生じないよう既存の原油産出国は50ドルよりも高い価格をつけることができなくなってしまっている。
ただし、損益分岐点はブログのように、売上=総コストとなる価格や販売数量で問題ないのだが、すでに参入してしまったシェールオイル企業が生産をやめる操業停止点は限界利益=限界費用となる価格なので、操業停止点よりも低めになるはずである。
その操業停止点は、40ドル付近だとすれば、原油価格が40~60ドル付近で推移するという週刊ダイヤモンドの記事は理解できる。
つまり、1バレル40ドル付近にまで原油価格が低下すると、すでに参入しているシェールオイル企業が1バレル産油するためにかかるコスト(変動費用)が価格を上回ってしまい、シェールオイルを産油すればするほど赤字がでることになってしまう。そのため、これらの企業は産油をやめ、供給量が減少する。
それによって、既存の原油産出国は原油価格を上げることができるようになるが、そうやって40ドルから上昇していくにつれ、生産を再開するシェールオイル企業が現れ始め、50ドル以上に価格が上昇すると新規参入するシェールオイル企業も出てくるため、再び供給量が増え、価格が低下する。価格が低下すれば、赤字にあるシェールオイル企業が現れ、また供給量が減り、価格は上がる。
というサイクルを繰り返す、ということであろう。
講義での工夫案
講義では、はじめに日本でのガソリン価格が下落していることを示して、「なんでガソリン価格がここ2年ほど下落してしまっているのか」と学生に問いかけた後に、この話に持っていく、という形だろうか。
おそらく、急に「原油価格が~」だとか「シェールオイルが~」といっても学生の馴染みのない話なので興味を示してくれない可能性がある。それに対してガソリンは大学生になれば車やバイクに乗っている学生もおり、より身近な存在であるため、興味を持ってくれやすいはずである。