経営系大学教員の授業の小ネタ

とある大学で経営学を教えている大学教員が授業で話せそうな小ネタを集めておくブログ

スイッチングコストを生じさせたPayPayの100億円キャッシュバックキャンペーン

一部のインターネット界隈で今大いに盛り上がっているのがPayPayというオンライン決済サービスである。このPayPayはソフトバンクが立ち上げたサービスで、2019年3月31日までPayPayで支払った金額の20%(場合によっては100%)のキャッシュバックを受け取ることができるというキャンペーンをぶち上げた。

これによって任天堂スイッチの転売ヤーが大量購入に踏み切ったり、普段値下げをしないApple社製品ユーザーやsurfaceが欲しい人たちにとっては非常にお買い得に購入できるということで浮足立っている人が多数いるようだ。

そんな中、スイッチングコストの説明に使えそうな記事を見つけたので自分への備忘録がてら紹介しておく。

 

還元された20%の電子マネーが付与されるのは来年1月10日と、当面は使えない。付与された後も、使える店舗はPayPay対応店に限られている。筆者の自宅近くでPayPayに対応している店はファミリーマートしかないが、コンビニで使い切るには時間がかかりそうだし、筆者はファミマよりセブン-イレブンの方が好きだ。家電の買い物は普段、Amazon.comヨドバシカメラで行っているのだが、これらの店ではPayPayは使えないから、しばらくはビックカメラで買うことになるだろう。PayPayを持っていない時は、コンビニも家電量販店も自由に選んでいたのに、“お得な還元”を受けてしまっただけに行動が縛られてしまい、店を選ぶ自由度を失ってしまった。※アンダーラインは筆者(引用:”PayPay祭り”でわたしが得たものと失ったもの)

www.itmedia.co.jp

スイッチングコストとは、これまで使用していた製品・サービスから別の製品・サービスに切り替える(スイッチする)際に発生するコストのことである。このスイッチングコストには大雑把に言えば金銭的なコストと非金銭的なコストの2種類ある。

例えば、今までauを使っていた人がドコモに契約期間内に乗り換える場合、解約手数料や事務手数料で1万円以上かかってしまうという金銭的なコストが発生する。他にも、家族がauを使っているのでauを使い続ければ家族間の通話は無料なのに、ドコモに乗り換えると家族間の通話にもお金がかかるようになってしまうというのも金銭的なスイッチングコストである。

また、手続きに手間と時間がかかるといったコストや、auが好きだった人がドコモへの乗り換えを検討する場合、その好きだったのにという気持ちがサービスを切り替える際の心理的な障害は非金銭的なスイッチングコストとなる。

このスイッチングコストを高めることで、自社の顧客が他社に流れにくくなるので、より高い価格を顧客に請求することができるようになるため、どのようにしてスイッチングコストを高めていくのかという点は非常に重要である。

(ちなみに、総務省が携帯キャリアの4年縛りを問題視しているのもスイッチングコストが高くなっていることを懸念しているからである。)

 

先ほどのitmediaに掲載された記事の記者の方も残念ながらPayPayを使わず、他のサービスに乗り換えてしまうと1か月後にもらえるキャッシュバックを使えなくなってしまうというコストが発生する。それによって、PayPayを導入している店舗からこの記者は乗り換えることが難しい状態が生じてしまっている。

PayPayは消費者や加盟店に対して簡単な決済サービスを提供することによって利便性を確保しようとするものであるが、こうしてPayPayの加盟店からのスイッチングコストを高めることによって、加盟店に継続的に客が訪れやすい状況を作ることができるという効果もある。

また、PayPayの事例はスイッチングコスト高める効果があるという話だけでなく、100億円キャンペーンに注目をして、Promotionの販売促進の事例として講義では紹介することもできる。それ以外にも、PayPayの利用者が多ければ多い程、加盟店にとってPayPayを導入することの効果が高くなるという点でネットワーク外部性の話をする際に、なぜPayPayが100億円のキャンペーンを行ったのかということを考えさせることもできる。