経営系大学教員の授業の小ネタ

とある大学で経営学を教えている大学教員が授業で話せそうな小ネタを集めておくブログ

経営戦略論の概要:プレイヤーの数から考える交渉力(1)

さて、突然ですがみなさんは交渉力と聞くとどんなイメージを思い浮かべるでしょうか。

交渉力が強い人というと、押しが強くぐいぐい自分の主張をしてくる人というイメージを思い浮かべる人も多いでしょう。はたまた、押し自体は強くないけれど、論理的に相手のメリットと自分のメリットを議論しながら最終的に自分にとってよいように物事をすすめるといったスマートな人を思い浮かべる人もいるかもしれません。

しかし、そうした“交渉力“のある人の要求をきかなければならないのはなぜでしょうか。

 

今、あなたは大学で講義を受けています。大教室で行われている大人数向けの講義で隣には名前も知らない学生が座っています。その学生が突然こう話しかけてきました。

「ねえ、ちょっと。悪いんだけど、お金かしてくれない?」

こんな申し出をしてくる人がいたら絶対ににべもなくあなたは断るでしょう。

では、もう1つ状況を考えてみましょう。

今、あなたには友達が1人しかいません。その友人がいなくなればあなたは一人ぼっちです。講義を休めば講義資料を見せてくれる人もいなければ、大学の先生が「来週は小テストをする」と言っていたとしてもそれを教えてくれる人もいません。休憩時間は机に突っぷしながら早く時間よ過ぎてくれと祈るばかりです。そんな唯一の友人があなたに話しかけてきました。

「ねえ、ちょっと悪いんだけど、お金貸してくれない?」

どうでしょうか。先程とはだいぶ印象が違いますね。理由を聞いて、その理由次第では貸してあげようと思うようになったのではないでしょうか。これはあなたの友人が先程の見知らぬ人よりもあなたに対して交渉力を持っていることを意味しています。先程の見知らぬ人のケースでは、無条件で要求を断られるという結果に終わってしまいます。それに対して、唯一の知人が「お金を貸してくれ」という要求をしてきた際に、あなたは条件次第ではありますが、お金を貸してあげるという気持ちになったはずです。この場合、友人はあなたに対して自分の要求を押し通す力を持っていることになります。
(ちなみに、私は大学時代仲の良い友人から「3万円貸してくれ」と言われたので理由を尋ねると「背が伸びる薬を買いたい」という返事がありました笑)

こうした見知らぬ人と、唯一の友人の違いはなんでしょうか。その大きな違いは「代えのきかなさ」です。見知らぬ人からはどんな風に思われたとしても痛くも痒くもありません。それに対して、唯一の友人は失うと辛い。この違いが相手の要求をききいれようという気持ちを左右しているのです。

その「代えのきかなさ」に影響を与えているのが「数」です。見知らぬ人は無数にいるため、1人見知らぬ人を失っても代えとなる存在は無数にいます。それに対して、唯一の友人は替えがききません。それゆえに、唯一の友人の要求は聞き入れたくなってしまうのです。

実はこのことは企業も同じです。他の数多ある企業と何も変わらず特徴のない企業は「替えのききやすい」存在です。そのため、自分たちの製品・サービスの値上げを顧客に要求してもそれを受け入れてもらうことはできません。それに対して、googleappleなどのように唯一無二といっていい製品・サービスを提供している企業は自分たちが望む価格を顧客に要求しやすくなります。

このように、経営を考える上でプレイヤーの数というのは非常に重要となってくるのです。